霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】サイトの全面改修に伴いサブスク化します。詳しくはこちらをどうぞ。(2023/12/19)
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第五章 (まつ)(した)〔一〇一七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第37巻 舎身活躍 子の巻 篇:第1篇 安閑喜楽 よみ(新仮名遣い):あんかんきらく
章:第5章 松の下 よみ(新仮名遣い):まつのした 通し章番号:1017
口述日:1922(大正11)年10月08日(旧08月18日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年3月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
自分は二人の酔っ払いを連れてようやく、松の下というさびしい場所にさしかかった。勘吉は、ここに子分と共に先回りして潜み、自分たち三人を叩きのめそうという魂胆だった。
嘘勝はそれを探索し、加勢を集めて山に登り、石や割木を用意して、三人を助けようと準備してくれていた。
自分たち三人が松の下を通りかかると、四五人の黒い影が現れて、いきなり次郎松に殴り掛かってきた。自分は山の手に逃げたが、長吉も囲まれて殴られている。
すると山の上から石つぶてや割木の雨が降ってきた。嘘勝の一隊が、加勢を始めたのであった。さすがの勘吉と子分たちもこれにはたまらず、暗闇の中を逃げ出した。嘘勝は次郎松と弟の長吉を助け出し、ようやく家路につくことができた。
こういうことが何回も重なり、何度も袋叩きの目にあった。そのたびに、自分はなんだか社会に対して大きな使命を持っているような気がして、他人に万一でもけがをさせたら、それが将来の障害になるのではないか、との念が起こってきた。
そうして敵にやられるままに耐えていると、いつも誰かが出てきて敵を追い払ってくれたのである。このようであったから、二月八日も若錦一派の襲来を受けるようなことを自ら招いていたのであった。
精乳館で養生して母が訪ねてきた後、八十五歳になった祖母がやってきて、昨晩のことは神様の慈悲の鞭だととうとうと諭し、くだらない喧嘩などに身をやつさずに誠の人間になってくれ、と戒めた。
自分は胸が張り裂けるように思い、森厳なる神庁で大神の裁きを受けるような心持がして、心の中で改心を誓い詫びをしていた。
その夜更け、胸が騒ぎ心の中は警鐘乱打が響くようであった。そして今が善悪正邪の分水嶺に立っているように思われた。折しも忽然として、一塊の光明が身辺をい照らす如く思われてきた。天授の霊魂中の直日の御魂が眠りから覚めたのであろう。
そして父ばかりが大切の親ではない、母や祖母をこれまで軽んじてきた自分の思い違いを悟った。またならず者を相手に挑み争った行為は立派ではなかったと反省した。
人のなすことを妨げるのではなく、自分は自分の本文を尽くし、現行心一致の模範を天下に示せばよいのだ、人の善悪を裁く権利など自分は持っていない、ということに思い至った。
懺悔と悔悟の念に五臓六腑をえぐられるような苦しさを感じ、ついには感覚を失ってしまった。このとき、芙蓉山に鎮まりたまう木花咲耶姫命の命により、天使松岡の神が現れ来たって高熊山の霊山に導かれて修行を命ぜられることになったことは、第一巻に述べたとおりである。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-18 13:53:14 OBC :rm3705
愛善世界社版:59頁 八幡書店版:第7輯 51頁 修補版: 校定版:62頁 普及版:27頁 初版: ページ備考:
001 ()(ぐわつ)廿五(にじふご)(にち)(つき)(ひがし)(やま)()(かす)めて(のぼ)つて()る。002されど満天(まんてん)(くも)(つつ)まれて()(こと)とて、003(ただ)(ひがし)(やま)()薄明(うすあ)かくなつて、004丁度(ちやうど)(つき)()時刻(じこく)だから、005()れが(つき)(ひかり)だらうと(うなづ)かれる(くらゐ)であつた。006()(よひ)(くち)(ひがし)薄明(うすあ)かるいならば、007(けつ)して(つき)(おも)(こと)出来(でき)ない(くらゐ)なものであつた。008(ほし)(かげ)もなく咫尺(しせき)暗澹(あんたん)として、009六尺幅(ろくしやくはば)(みち)泥酔者(よいどれ)二人(ふたり)千鳥(ちどり)(ともな)ひ、010(まつ)(さくら)との古木(こぼく)抱合(だきあ)ふて()つて()る『(まつ)(した)』と()ふ、011(さび)しい(ところ)にやつて()た。
012 そこには豚小屋(ぶたごや)(やう)一軒屋(いつけんや)があつて、013嘘勝(うそかつ)親戚(しんせき)なる嘘鶴(うそつる)といふのが、014四五(しご)(にん)(ぐら)しで()んで()た。015現今(げんこん)では道路(だうろ)拡張(くわくちやう)されて、016(いへ)のあつた(ところ)坦々(たんたん)たる街道(かいだう)になつて()る。017嘘勝(うそかつ)河内屋(かはちや)挙動(きよどう)不審(ふしん)(おこ)し、018いろいろと探索(たんさく)をして()結果(けつくわ)019河内屋(かはちや)一類(いちるゐ)が、020(この)嘘鶴(うそつる)(いへ)半丁(はんちやう)(ほど)(ひがし)の、021樹木(じゆもく)(しげ)れる(くら)場所(ばしよ)で、022(さん)(にん)(たた)きのめさうと(たく)んで()(こと)(さと)り、023(ひそ)かに(やま)(のぼ)り、024手頃(てごろ)(いし)割木(ばいた)()んで()つて()た。025それとも()らず河内屋(かはちや)一行(いつかう)(ろく)(にん)は、026道傍(みちばた)森林(しんりん)先廻(さきまは)りして、027喜楽(きらく)一行(いつかう)(かへ)つて()るのを(みち)要撃(えうげき)せむと、028()(かま)へて()たのである。
029 かかる計略(けいりやく)のありとは、030(かみ)ならぬ()()(よし)もなき(さん)(にん)は、031(やみ)(みち)前後(ぜんご)(こころ)(くば)(なが)ら、032ヒヨロリヒヨロリトボトボと、033三間山(さんげんやま)(ふもと)にさしかかる。034(たちま)(あら)はれた四五(しご)(くろ)(かげ)035矢庭(やには)次郎松(じろまつ)(あたま)を、036棒千切(ぼうちぎ)れを()つてカーンと(おと)がする(ほど)(なぐ)りつけた。037次郎松(じろまつ)(おどろ)いて高岸(たかぎし)から(すべ)りおち、038稲葉(いなば)(しげ)みへ()をかくし、039睾丸(きんたま)泥田(どろた)(ひた)して(ふる)ふて()る。040長吉(ちやうきち)は『アイタタタ』と(たふ)れた。041喜楽(きらく)(すぐ)(やま)目蒐(めが)けて二三間(にさんげん)ばかり駆登(かけのぼ)る。042四五(しご)(くろ)(かげ)長吉(ちやうきち)(むら)がり(あつ)まつて、043()んだり()つたり、044やつてる最中(さいちう)に、045(やま)十間(じつけん)ばかり(うへ)から割木(わりき)(あめ)046栗石(くりいし)(つぶて)(あられ)()つて()る。047(この)(くろ)(かげ)勿論(もちろん)勘公(かんこう)一隊(いつたい)である。048流石(さすが)勘公(かんこう)(いし)にうたれ、049割木(わりき)にあてられ、050()()うの(てい)にて一目散(いちもくさん)(やみ)(みち)()()した。
051 長吉(ちやうきち)(かな)しさうな(こゑ)で、
052長吉(ちやうきち)『オーイオーイ、053喜楽(きらく)サン、054次郎松(じろまつ)サン……』
055(さけ)んで()る。056喜楽(きらく)(その)(こゑ)()いて、
057喜楽(きらく)長吉(ちやうきち)はやられたと(おも)ふたが、058あんな(こゑ)()以上(いじやう)はまだ()きて()るのか』
059(やや)安心(あんしん)して(やま)()りかけた。060(くら)がりから、
061(嘘勝)『アハヽヽヽ』
062(わら)(をとこ)(こゑ)063(いぶ)かり(なが)近寄(ちかよ)つて()れば、064長吉(ちやうきち)(あに)嘘勝(うそかつ)であつた。065喜楽(きらく)は、
066喜楽(きらく)『オイ、067(その)(こゑ)嘘勝(うそかつ)ぢやないか』
068()いて()ると、
069嘘勝(うそかつ)『サウぢや、070嘘勝(うそかつ)ぢや、071アハヽヽヽ』
072(また)もや(わら)つて()る。
073 (この)(をとこ)(うそ)上手(じやうづ)で、074(ひと)から嘘勝(うそかつ)仇名(あだな)をつけられ、075それが(つひ)には通用語(つうようご)になつて(しま)ひ、076嘘勝(うそかつ)()はれるのを(かへつ)名誉(めいよ)(おも)つて()(くらゐ)(をとこ)である。077(その)叔父(をぢ)(また)ウソ(つる)といつて、078(うそ)をいふのを得意(とくい)がつて自慢(じまん)してる(をとこ)である。079何事(なにごと)掛合(かけあ)ふのにも、080自分(じぶん)から(うそ)つきと()(こと)承認(しようにん)し、081(ひと)(また)(みと)めて()ると(おも)つてか、082(ひと)(はなし)をする(たび)に『今度(こんど)(うそ)ぢや()いぞ』と前置(まへおき)をする(くせ)がある。083それでも八九分(はちくぶ)(うそ)だから(たま)らない。084(まつ)(した)()んで()嘘鶴(うそつる)()(やつ)085五斗俵(ごとうたはら)(もみ)(から)充実(じゆうじつ)し、086それを叮嚀(ていねい)()めて、087何時(いつ)(せま)(いへ)(には)二十俵(にじつぺう)()んで『(こめ)十石(じつこく)088(この)(とほ)りあるんだが、089もちと()()ぬので()れぬのだ。090(これ)抵当(ていたう)にチツと(かね)(かし)()れぬか』と()つて(かね)融通(ゆうづう)(めう)にする(をとこ)であつた。091(ひと)一寸(ちよつと)(たはら)(さは)らうとすると『オイコラ、092(これ)(さは)つてはならぬぞ、093(さは)三百(さんびやく)(えん)罰金(ばつきん)だ』といひ、094(ねずみ)()ふといつて(ひひらぎ)一面(いちめん)()して()(ずる)(をとこ)である。095(その)血統(けつとう)()けた勝公(かつこう)長吉(ちやうきち)も、096相当(さうたう)(うそ)上手(じやうづ)であつた。097(しか)(なが)不思議(ふしぎ)(こと)には、098比較(ひかく)(てき)村人(むらびと)信用(しんよう)()けて()る、099天下(てんか)御免(ごめん)(うそ)つき(をとこ)である。
100 却説(さて)101長吉(ちやうきち)嘘勝(うそかつ)出現(しゆつげん)(ちから)()102(くら)がりに(すそ)をパタパタと(はら)(なが)ら、
103長吉(ちやうきち)喜楽(きらく)サン、104如何(どう)(おれ)(よく)にも(とく)にも()へられぬワ』
105三才児(みつご)(やう)言葉(ことば)嘆声(たんせい)()らし、106(しき)りに(たもと)(すそ)(どろ)がついたと(おも)うて、107かいばたきして()る。108長吉(ちやうきち)(きず)(べつ)()()でず、109団瘤(たんこぶ)()()出来(でき)(くらゐ)ですんだ。110次郎松(じろまつ)(さん)(にん)(ささや)(ごゑ)()いて、111やつと安心(あんしん)したと()え、112水田(みづた)(いね)(なか)から(しろ)頬冠(ほほかむり)をパツと(あら)はし、
113次郎松(じろまつ)『ホーイ ホーイ』
114(ちから)()(こゑ)()んで()る。
115喜楽(きらく)次郎松(じろまつ)サン、116嘘勝(うそかつ)()(たす)けて()れたのだから、117安心(あんしん)しなさい。118河内屋(かはちや)一隊(いつたい)は、119とうに()げて(しま)ひよつた。120(はや)(あが)つておいで……』
121(さけ)んで()る。122次郎松(じろまつ)()(なか)から、
123次郎松(じろまつ)『モウ、124(こと)()からうかな』
125()(なが)ら、126ズクズクの身体(からだ)高岸(たかぎし)()ふて、127街路(がいろ)まで(のぼ)つて()た。
128 何時(いつ)()にか東半天(とうはんてん)青雲(あをくも)生地(きぢ)をむき()し、129下弦(かげん)(つき)(ほそ)(ひかり)地上(ちじやう)()げた。130嘘勝(うそかつ)本街通(ほんかいだう)(ひだり)にとり、131河内屋(かはちや)様子(やうす)(さぐ)るべく(かへ)()く。132(さん)(にん)(みち)(みぎ)にとり、133(ほそ)野道(のみち)(わた)つて松原(まつばら)()て、134(くら)藪小路(やぶこうぢ)(くぐ)つて、135(さび)しい妖怪(えうくわい)()ると()はれて()坊主池(ばうずいけ)(あた)りに辿(たど)りつき、136(また)もや野道(のみち)(わた)つて(やうや)家路(いへぢ)(かへ)つた。
137 ()()(こと)何回(なんくわい)(かさ)なり、138河内屋(かはちや)若錦(わかにしき)身内(みうち)から敵視(てきし)されて、139八九回(はちくくわい)大喧嘩(おほげんくわ)(はじ)まり、140何時(いつ)喜楽(きらく)袋叩(ふくろだた)きにやられ(がち)であつた。141何時(いつ)(たた)かれもつて、142(こころ)(おも)()かんだのは()うである。
143(なん)だか自分(じぶん)は、144社会(しやくわい)(たい)して(だい)なる使命(しめい)()つて()(やう)()がする。145万一(まんいち)(ひと)怪我(けが)でもさせて法律(はふりつ)問題(もんだい)でも惹起(じやくき)したならば、146将来(しやうらい)のためにそれが障害(しやうがい)になりはせないか?』
147()ふのが第一(だいいち)念頭(ねんとう)()かんで()た。148(その)(つぎ)には、
149(ひと)(きず)つけたならば、150屹度(きつと)夜分(やぶん)には()られまい。151自分(じぶん)何時(いつ)真裸(まつぱだか)になつて、152(いし)だらけの(みち)相撲(すもう)をとるが、153(ちから)一杯(いつぱい)()りきつた(とき)は、154如何(どん)(ところ)真裸(まつぱだか)()()げられても(すこ)しも(きず)もせぬ、155(いた)みもせぬ、156(これ)(おも)へば、157全身(ぜんしん)(ちから)()めてさへ()れば、158何程(なにほど)(たた)かれても(いた)みも(かん)じまい』
159との(ねん)(おこ)り、160(ゆび)(さき)から(あたま)(さき)(まで)(ちから)()れて、161身体(からだ)(かた)くして(てき)(たた)くに(まか)して()た。162……もう(かな)はぬ、163(あや)まろか……と(おも)つてる間際(まぎは)になると、164何時(いつ)(たれ)かが()()て、165(てき)()()らし、166(あるひ)仲裁(ちうさい)()つて、167危難(きなん)(めう)(たす)けて()れた。168それで、
169人間(にんげん)()ふものは、170(すべ)運命(うんめい)左右(さいう)されるものだ。171(うん)(わる)ければ(たたみ)(うへ)でも()ぬ。172(うん)がよければ、173砲煙(はうえん)弾雨(だんう)(なか)でも(けつ)して()ぬものでは()い』
174()一種(いつしゆ)信念(しんねん)(おこ)つて()た。175それ(ゆゑ)(ひと)(たの)まれたり、176(たの)まれなくても喧嘩(けんくわ)仲裁(ちうさい)がし()くなつたり、177(ある)(とき)は、
178(おも)存分(ぞんぶん)大喧嘩(おほげんくわ)をやつて……(えら)(やつ)だ! (つよ)(やつ)だ! と()はれ()い。179そうして(つよ)()()つて、180仮令(たとへ)丹波(たんば)一国(いつこく)侠客(けふかく)にでもよいからなつて()たい』
181()精神(せいしん)()()(つの)つて()た。182(その)()めに()(ぐわつ)八日(やうか)(ばん)にも、183若錦(わかにしき)一派(いつぱ)襲来(しふらい)()くる(やう)(こと)(みづか)招来(せうらい)したのである。
184
185 若錦(わかにしき)一派(いつぱ)打擲(ちやうちやく)され、186(あたま)(いた)めて喜楽亭(きらくてい)(ひそ)んで()(ところ)へ、187(はは)がやつて()非常(ひじやう)(くや)まれる。188(しば)らくすると八十五(はちじふご)(さい)になつた祖母(そぼ)が、189(つゑ)もつかずに()()られた。190(すこ)(みみ)(とほ)かつたが、191(わる)(こと)(なん)でもよく(きこ)ゆる(ひと)であつた。192何時(いつ)祖母(そぼ)勝手聾(かつてつんぼ)をして()られるのかと(うたが)ふたが、193(じつ)は、194本当(ほんたう)(きこ)えないのであつた。195(きこ)えぬかと(おも)ふて、196(つんぼ)とか(なん)とか一言(ひとくち)でも悪口(あくこう)()はうものなら、197(ほん)守護神(しゆごじん)()つて()るのか、198(ただし)(かみ)(さま)(ばつ)なのか、199(すぐ)()かるのは不思議(ふしぎ)であつた。200気丈(きぢやう)祖母(そぼ)(この)()様子(やうす)()てとり、201諄々(じゆんじゆん)として喜楽(きらく)(むか)つて意見(いけん)(はじ)められた。202祖母(そぼ)()は『うの()』といつた。
203祖母(そぼ)『お(まへ)最早(もはや)三十(さんじふ)(ちか)身分(みぶん)だ、204(もの)道理(だうり)(わか)らぬ(やう)年頃(としごろ)でもあるまい。205侠客(けふかく)だとか人助(ひとだす)けだとか(くだ)らぬ(こと)()つて、206(たま)(ひと)(たす)け、207(たす)けたよりも十倍(じふばい)二十倍(にじふばい)(ひと)(うら)まれて、208自分(じぶん)()災難(さいなん)(かか)(やう)人助(ひとだす)けは、209チツと(かんが)へて(もら)はねばなるまい。210無頼漢(ならずもの)賭博者(ばくちうち)相手(あひて)喧嘩(けんくわ)をするとは、211不心得(ふこころえ)にも物好(ものず)きにも(ほど)がある。212(まへ)何時(いつ)悪人(あくにん)(くじ)いて(よわ)善人(ぜんにん)(たす)けるのが、213(をとこ)(たましひ)ぢやと()ふて()るが、214六面(ろくめん)八臂(はつぴ)魔神(まがみ)なれば()らぬ(こと)215そんな病身(びやうしん)やにこい身体(からだ)()(なが)ら、216相撲取(すもうとり)侠客(けふかく)喧嘩(けんくわ)するとは(あま)(わか)らぬぢやないか。217今年(ことし)八十五(はちじふご)になる年寄(としより)や、218(をつと)(わか)れて()もない一人(ひとり)(はは)や、219東西(とうざい)(わきま)()らぬ(やう)な、220頑是(ぐわんぜ)なしの(ちひ)さい(いもうと)がある(こと)(わす)れてはなるまい。221(この)()(かみ)さまは()いとか、222哲学(てつがく)とか()つて空理窟(からりくつ)ばかり()つて、223勿体(もつたい)ない、224神々(かみがみ)(さま)()(もの)にして、225()無礼(ぶれい)をした(むく)いが(いま)()たのであらう。226()()()ちつけて(かんが)へて()れ。227昨晩(さくばん)(こと)(まつた)(かみ)(さま)()慈悲(じひ)(むち)をお(まへ)(くだ)して、228(たか)(はな)()つて(くだ)さつたのだ。229(かなら)(かなら)ず、230若錦(わかにしき)(その)(ほか)(ひと)(うら)めてはなりませぬぞ。231一生(いつしやう)()恩人(おんじん)ぢやと(おも)ふて、232(かみ)(さま)にも()(れい)(まを)しなさい。233(まへ)実父(じつぷ)幽界(あのよ)から、234(その)行状(ぎやうじやう)(わる)いのを()て、235()(ところ)へも()()かず、236(たましひ)(ちう)(まよ)ふて()るであらう(ほど)に、237(これ)から(こころ)()()へて、238(まこと)人間(にんげん)になつて()れ、239侠客(けふかく)(やう)(もの)になつて、240それが(なん)手柄(てがら)になるか』
241涙片手(なみだかたて)慈愛(じあい)(くぎ)をうたれて、242流石(さすが)喜楽(きらく)(むね)()()ける(やう)(おも)ふた。243森厳(しんげん)なる神庁(しんちやう)()()されて、244大神(おほかみ)審判(しんぱん)()ける(やう)心持(こころもち)がして、245負傷(ふしやう)苦痛(くつう)打忘(うちわす)れ、246(なみだ)()れて、247両親(りやうしん)(まへ)()(あは)せ、
248改心(かいしん)します、249心配(しんぱい)かけて()みませぬ』
250(こころ)(なか)(わび)をして()た。
251 老母(らうぼ)(はは)(わが)()()して(かへ)()く。252あとに喜楽(きらく)(ただ)一人(ひとり)悔悟(くわいご)(なみだ)()れて、253(おも)はず両手(りやうて)(あは)せ、254子供(こども)(とき)から(かみ)(さま)信仰(しんかう)して()(なが)ら、255(ここ)二三(にさん)(ねん)(かみ)(みち)(わす)れ、256哲学(てつがく)にかぶれ、257無神論(むしんろん)()して()(こと)()ゆると(とも)に、258()つても()ても()られない(やう)気分(きぶん)になつて()た。
259 ()森々(しんしん)()(わた)る。260(みづ)さへ(ねむ)丑満(うしみつ)刻限(こくげん)261森羅(しんら)万象(ばんしやう)(せき)として(こゑ)なき(はる)()262喜楽(きらく)胸裡(きようり)騒々(さうざう)しさ、263警鐘(けいしよう)乱打(らんだ)(こゑ)上下(じやうげ)左右(さいう)より(ひび)(きた)り、264(わが)()()むる(ごと)くに(かん)じられた。
265『あゝ(いま)善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)分水嶺(ぶんすいれい)(じやう)()つて()るのだ。266左道(さだう)()かうか、267右道(うだう)()かうか』
268(ふか)(おも)ひに(しづ)む。269(をり)しも忽然(こつぜん)として、270一塊(いつくわい)光明(くわうみやう)身辺(しんぺん)射照(いて)らす(ごと)(おも)はれて()た。271天授(てんじゆ)霊魂中(れいこんちう)閑遊(かんいう)する直日(なほひ)御霊(みたま)(ねむ)りより()めたのであらう。272深夜(しんや)つらつら(おも)ふ。
273『あゝ(われ)誤解(ごかい)して()た。274(ちち)ばかりが大切(たいせつ)(おや)ではない、275(はは)(また)大切(たいせつ)(おや)であつた。276そして祖母(そぼ)(また)(おや)(おや)である。277天地(てんち)(ひろ)しと(いへど)(おや)一人(ひとり)よりない。278()かる(わか)りきつた道理(だうり)を、279今迄(いままで)体主霊従(から)(ごころ)狭霧(さぎり)(つつ)まれて、280勿体(もつたい)なくも(はは)祖母(そぼ)(かる)んじて()たのは、281(おも)はざる失敗(しつぱい)であつた。282(ちち)()くなつた以上(いじやう)は、283もう如何(どん)(あら)(こと)をしても、284心配(しんぱい)する(おや)はないと、285仁侠(にんけふ)気取(きど)りで(しばしば)危難(きなん)場所(ばしよ)出入(しゆつにふ)し、286(おや)(なげ)きを今迄(いままで)()づかなんだのは(なん)たる馬鹿者(ばかもの)ぞ、287(なん)たる不孝者(ふかうもの)ぞ!アヽ(ことわざ)にも……いらはぬ(はち)()さぬ……と()(こと)がある。288なまじひに無頼漢(ならずもの)(くらゐ)相手(あひて)(いど)(あらそ)ひ、289()(くじ)かうとしたのは、290(あま)立派(りつぱ)(おこな)ひではなかつた。291勘公(かんこう)次郎松(じろまつ)二百(にひやく)(ゑん)(かね)()ささうとしたのも(これ)(けつ)して人間業(にんげんわざ)ではない。292次郎松(じろまつ)はとられねばならぬ因縁(いんねん)があつたのだ。293(へび)折角(せつかく)294艱難(かんなん)辛苦(しんく)して(やうや)くに(かへる)(くち)にし、295(いち)(にち)()にありついて(うま)()まうとして()(さい)に、296(ひと)あり、297(その)(へび)()ちたたき、298(よわ)(はう)(かへる)(たす)けてやつたなら、299(その)(かへる)大変(たいへん)(よろこ)ぶであらうが、300肝腎(かんじん)餌食(ゑじき)をとり(のが)した(へび)屹度(きつと)(その)(ひと)(うら)むであらう。301()(かま)へもない(ひと)商売(しやうばい)(かま)()てしたと(いか)るのは、302人間(にんげん)(おな)じである』
303()(やう)(かんが)へて()た。304本居(もとをり)宣長(のりなが)(うた)にも、
305()(なか)善事(よごと)曲事(まがごと)()きかはる
306(なか)よぞ()ぢの(こと)はなりづる
307 何事(なにごと)()(なか)正邪(せいじや)混交(こんかう)陰陽(いんやう)交代(かうたい)して成立(せいりつ)するものである。308(べつ)(ひと)商売(しやうばい)まで(さまた)げなくとも、309自分(じぶん)自分(じぶん)本分(ほんぶん)(つく)し、310言行心(げんかうしん)一致(いつち)模範(もはん)天下(てんか)(しめ)せば()いのだ。311自分(じぶん)(まよ)ひがあり(つみ)があり(なが)ら、312(ひと)善悪(ぜんあく)(さば)権利(けんり)何処(どこ)にあらうか……
313(おも)へば(おも)(ほど)314自分(じぶん)今迄(いままで)やつて()(こと)(はづ)かしく、315(かつ)(おそ)ろしき(やう)()になつて()た。
316 ……(はは)(わが)()(あい)(おぼ)れて喜楽(きらく)(わる)いとはチツとも(おも)はず、317(ただ)(ちち)()くなつたから、318人々(ひとびと)(あなど)つて、319自分(じぶん)()をいぢめるとのみ(おも)はれて()(やう)だが、320(ちち)()くなつたのは喜楽(きらく)ばかりぢやない、321(ひろ)()(なか)には(いく)千万(せんまん)(にん)あるか()れぬ(ほど)だ。322(ちち)()くなつた()めに世間(せけん)同情(どうじやう)をよせた(ひと)こそあれ、323たとへ自分(じぶん)(やう)に、324一部(いちぶ)侠客(けふかく)社会(しやくわい)からにせよ(にく)まれたものは(すくな)い、325()(かね)()(ひと)()ければ(けつ)して()らない、326太鼓(たいこ)()(ひと)がなければ(けつ)して(おと)はせぬ、327(これ)(おも)へば祖母(そぼ)今朝(けさ)教訓(けうくん)は、328(しん)(かみ)のお(さと)しである。329自分(じぶん)(こころ)から(おや)兄弟(きやうだい)(まで)迷惑(めいわく)をかけたか……
330(おも)へば、331懺悔(ざんげ)(つるぎ)()(つらぬ)かれて五臓(ござう)六腑(ろつぷ)(えぐ)らるる(やう)(くる)しさを(かん)じて()た。332悔悟(くわいご)(ねん)(いち)()(おこ)(きた)り、333(つひ)には感覚(かんかく)までも(うしな)ひ、334ボンヤリとして(われ)(わが)()(わか)らない(やう)気分(きぶん)になつて()た。
335 (この)(とき)芙蓉山(ふようざん)(しづ)まり(たま)木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)(みこと)(めい)として、336天使(てんし)松岡(まつをか)(かみ)(あら)はれ(きた)り、337喜楽(きらく)(すなは)(いま)瑞月(ずゐげつ)王仁(おに)を、338高熊山(たかくまやま)霊山(れいざん)(みちび)修行(しうぎやう)(めい)ぜられた(こと)は、339第一(だいいつ)(くわん)()べた(とほ)りであるから、340此処(ここ)には省略(しやうりやく)して()きます。
341大正一一・一〇・八 旧八・一八 北村隆光録)

王仁三郎が著した「大作」がこれ1冊でわかる!
飯塚弘明・他著『あらすじで読む霊界物語』(文芸社文庫)
絶賛発売中!

目で読むのに疲れたら耳で聴こう!
霊界物語の朗読 ユーチューブに順次アップ中!
霊界物語の音読まとめサイト
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→