霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 吉崎仙人(よしざきせんにん)〔一〇三九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻 篇:第1篇 千万無量 よみ:せんまんむりょう
章:第2章 第38巻 よみ:よしざきせんにん 通し章番号:1039
口述日:1922(大正11)年10月14日(旧08月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
丹波何鹿郡東八田村字淤与岐という小さな村がある。大本に因縁深い木花咲耶姫命が祀られている弥仙山のふもとである。ここに吉崎兼吉という不思議な人があって、自ら九十九仙人と称している。
彼は七歳のときに白髪異様の老人に山中で出会って様々な神秘を伝えられてから、筆先を書き表して、天のお宮の一の馬場の大神様の命令を受けて、天地の神々に大神の神勅を宣伝するのをもって天職となしていた。
家族や近隣からは発狂者とみなされていたが屈せず、二十五六歳のころから郷里を出て口上林村の山奥に入って、木こりをしながら板に神勅を書き表して暮らしていた。
その筆先の大要とは、「いよいよ天運循環し、われわれ大自在天派の世界は済んでしまった。これからは綾部の大本へ世を流して、神界の権利を艮の金神に手渡ししなければならない」というものであった。また出口教祖の古き神代からの因縁なども、あらまし書き表してある。
上谷の幽斎修行場で、この九十九仙人の精霊が四方春蔵に神懸り、足立正信、四方春蔵と喜楽の三人に神界のことを引き継がなければならないから、至急三人来てくれと依頼文をしたためた。
しかし足立と春蔵は、喜楽を出し抜いて自分たちだけが神界の秘術に預かろうと、先に出立してしまった。教祖に相談して、喜楽は二人を追いかけて行くことになった。
途中、山番の小屋で足立と春蔵が山番の爺さんと金銭のことでもめているのに追いついた。喜楽はそこに割って入り、山番に山道の修繕費用を渡した。これは、九十九仙人の精霊が山番の爺さんに懸って、三人の心を試していたということが後でわかったのである。
足立と春蔵は、喜楽に追いつかれて面食らい、捨て台詞を残して小屋を出ると、さっさと山路を登って行ってしまった。しかし山番の老人は、喜楽に九十九仙人の小屋への近道を教えてくれたので、五六丁も登ると仙人の小屋に着いた。
仙人は喜楽を歓暮迎し、神界の秘事を一夜間の間に諄々と説き諭してくれた。それは高熊山の修行で神界から見せられていたことと一致していたので、自分の信念はいよいよ強くなってきた。
九十九仙人は、足立と春蔵は大変な野心を起こしたために、神様から足止めをくっているのだと語った。果たして二人は濃霧のために方向を誤り、谷に転落してけがをするなどほうほうの体で山番の老人の小屋に戻って怒鳴りつけられていた。
二人は翌日の十一時ごろ、山番の老人の案内でようやく仙人の小屋に現れた。仙人は足立に対して、面部に殺気が現れているから早く惟神の道に立ち返るようにと忠告した。また春蔵に対しては、盤古の霊が守護しているから、大望を捨て、ただちに良心に立ち返って神界に仕えるように、と忠告した。
仙人は、時節が到来して自分の役目は今日で終わったので、明日からは人界に下って人場の勤めにしたがって余生を送ることにする、再び訪ねて来てももう話すことは何もない、と言って山奥に姿を没してしまった。
三人は帰途に就いたが、四方春蔵は盤古の悪霊に憑依され、喜楽を排斥しようと多くの役員信者を籠絡して計画を立てていたが、一年後にたいへんな神罰をこうむって悶死するに至った。慢心と取違は、実に慎むべきである。
主な登場人物: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm3802
愛善世界社版:15頁 八幡書店版:第7輯 162頁 修補版: 校定版:15頁 普及版:6頁 初版: ページ備考:
001 丹波(たんば)何鹿郡(いかるがぐん)東八田村(ひがしやたむら)(あざ)淤与岐(およぎ)といふ、002大本(おほもと)因縁(いんねん)(ふか)木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)(まつ)られたる弥仙山(みせんざん)のある(ちひ)さき(むら)に、003吉崎(よしざき)兼吉(かねきち)といふ不思議(ふしぎ)(ひと)があつて、004(みづか)九十九仙人(つくもせんにん)(しよう)してゐる。
005 (かれ)七才(しちさい)(とき)006白髪(はくはつ)異様(いやう)老人(らうじん)山中(さんちう)出会(であ)種々(しゆじゆ)神秘(しんぴ)(つた)へられてから、007(その)言行(げんかう)俄然(がぜん)一変(いつぺん)し、008日夜(にちや)木片(もくへん)(たけ)(はし)(など)にて、009金釘流(かなくぎりう)筆先(ふでさき)()きあらはし、010(てん)のお(みや)(いち)馬場(ばんば)大神様(おほかみさま)命令(めいれい)()けて、011天地(てんち)神々(かみがみ)大神(おほかみ)神勅(しんちよく)宣伝(せんでん)するのを(もつ)一生(いつしやう)天職(てんしよく)となし、012親族(しんぞく)013兄弟(きやうだい)014村人(むらびと)よりは発狂者(はつきやうしや)見做(みな)され、015一人(ひとり)相手(あひて)にする(もの)がない、016それにも(くつ)せず、017仙人(せんにん)自分(じぶん)()筆先(ふでさき)は、018現代(げんだい)(わけ)(わか)らぬ人間(にんげん)宣教(せんけう)するのではない、019宇宙(うちう)神々様(かみがみさま)大神(おほかみ)御心(みこころ)取次(とりつ)ぐのであるから、020到底(たうてい)人間(にんげん)分際(ぶんざい)として、021自分(じぶん)()いたことが(かみ)一枚(いちまい)だつて、022(わか)るべき道理(だうり)がないのだと()つてゐる。023二十五六才(にじふごろくさい)(ころ)から郷里(きやうり)淤与岐(およぎ)立出(たちい)で、024口上林村(くちかんばやしむら)山奥(やまおく)(しの)()り、025平素(へいそ)樵夫(きこり)職業(しよくげう)となし、026自分(じぶん)一人(ひとり)()(だけ)のものを(はたら)いて(こしら)へ、027チツとでも米塩(べいえん)(たくは)へが出来(でき)ると、028それが大方(おほかた)なくなるまで、029山中(さんちう)小屋(こや)(たて)こもつて、030(いた)(ひき)わつたのに(たけ)(さき)(たた)(つぶ)して(こしら)へた(ふで)神勅(しんちよく)()きあらはし、031日当(ひあた)りのよい場所(ばしよ)(えら)んで、032大空(おほぞら)()けて(ななめ)()てて()にさらしておくのである。033(その)仙人(せんにん)()いた筆先(ふでさき)は、034大本(おほもと)教祖(けうそ)のお筆先(ふでさき)対照(たいせう)して()ると、035余程(よほど)面白(おもしろ)連絡(れんらく)がある。036(その)筆先(ふでさき)大要(たいえう)()づザツと()(とほ)りである。
037今日(こんにち)(まで)世界(せかい)は、038吾々(われわれ)邪神(じやしん)()自由自在(じいうじざい)039跳梁(てうりやう)する世界(せかい)であつたが、040(いよいよ)天運(てんうん)循環(じゆんかん)して、041吾々(われわれ)大自在天派(だいじざいてんは)世界(せかい)はモウ()んで(しま)つたから、042これからは綾部(あやべ)大本(おほもと)()(なが)して、043神界(しんかい)一切(いつさい)権利(けんり)を、044(うしとら)金神(こんじん)手渡(てわた)しせなくてはならぬ』
045といふ意味(いみ)(こと)沢山(たくさん)()いてある。046(また)出口(でぐち)教祖(けうそ)(ふる)神代(かみよ)からの因縁(いんねん)などもあらまし()(あら)はしてある。
047 (この)九十九(つくも)仙人(せんにん)精霊(せいれい)が、048上谷(うへだに)幽斎(いうさい)修行場(しうぎやうば)(あら)はれて()て、049当年(たうねん)十八才(じふはつさい)四方(しかた)春三(はるざう)神懸(かむがかり)(ふで)()らして、
050(この)()一切(いつさい)神界(しんかい)(こと)を、051綾部(あやべ)大本(おほもと)(ひき)つがねばならぬから、052今度(こんど)みえた霊学(れいがく)先生(せんせい)と、053足立(あだち)先生(せんせい)054四方(しかた)春三(はるざう)三人(さんにん)至急(しきふ)()()れ』
055とスラスラと四方(しかた)()(つう)じて依頼文(いらいぶん)()いた。056そこで喜楽(きらく)霊学上(れいがくじやう)参考(さんかう)(ため)057(ひと)研究(けんきう)して()ようと(おも)ひ、058(その)翌日(よくじつ)直様(すぐさま)059口上林(くちかんばやし)山奥(やまおく)仙人(せんにん)(もと)出張(しゆつちやう)する(はず)であつたのが、060(をり)ふし綾部(あやべ)急用(きふよう)出来(でき)たので、061(かへ)らねばならなくなつた。062さうしてゐると三日目(みつかめ)正午過(しやうごすぎ)に、063上谷(うへだに)修行場(しうぎやうば)から四方(しかた)祐助(いうすけ)といふ老爺(ぢい)サンが(あはた)だしく大本(おほもと)()んで()て、
064祐助(いうすけ)上田(うへだ)先生(せんせい)065大変(たいへん)なことが出来(でき)ました。066(いま)(さき)足立(あだち)サンと春三(はるざう)サンが(しめ)(あは)せ、067上田(うへだ)先生(せんせい)にかくれて、068九十九(つくも)仙人(せんにん)会見(くわいけん)()き、069一切(いつさい)神界(しんかい)秘術(ひじゆつ)(さづ)けて(もら)ひ、070(かへ)つて()て、071上田(うへだ)をアフンとさせてやらう、072()(かく)十分(じふぶん)神力(しんりき)()けて()らねば、073上田(うへだ)()()すことが出来(でき)ぬ。074これは大秘密(だいひみつ)だから、075(けつ)して上田(うへだ)には()らしてはならぬぞ……と()つて、076二人(ふたり)があわてて()()かはりました。077あの人達(ひとたち)二人(ふたり)が、078先生(せんせい)(かく)れて勝手(かつて)()くといふのは、079(いづ)(ろく)(こと)ぢやありますまい。080(また)(ひと)(なに)かよからぬことを(たく)むのでせう。081先生(せんせい)082グヅグヅして()つては大変(たいへん)ですから、083サアこれから(わたし)口上林(くちかんばやし)(やま)(くち)まで御案内(ごあんない)(いた)しますから、084(いま)から二人(ふたり)(あと)()つかけて()つて(くだ)さい、085サア()()よ!』
086()()てて()る。087そこで喜楽(きらく)早速(さつそく)教祖(けうそ)面会(めんくわい)して、088(その)報告(はうこく)(どほ)りの(こと)申上(まをしあ)げると、089教祖(けうそ)は、
090『そんなら一時(いつとき)(はや)う、091御苦労(ごくらう)(なが)仙人(せんにん)()うて()(くだ)さい』
092()はれた。093祐助(いうすけ)(ぢい)サンの案内(あんない)で、094口上林(くちかんばやし)仙人(せんにん)()るといふ杉山(すぎやま)一里(いちり)(ほど)手前(てまへ)まで(おく)られ、095そこから祐助(いうすけ)(ぢい)サンに地理(ちり)(くは)しく(をし)へられ、096(たもと)(わか)ち、097雑草(ざつさう)()(しげ)羊腸(やうちやう)小路(こみち)(ただ)一人(ひとり)(のぼ)つていつた。
098 案内(あんない)()らぬ草深(くさぶか)峻坂(しゆんぱん)を、099一枚(いちまい)(かみ)()いた、100そそかしい()()(ちから)辿(たど)辿(たど)りつつ、101(こころ)(さき)(すす)んで()つた。102半里(はんり)ばかり(のぼ)つたと(おも)(とき)(みち)(かたはら)(はやし)(なか)矮小(わいせう)小屋(こや)があつて、103(その)(なか)には(なに)二三人(にさんにん)話声(はなしごゑ)(きこ)えて()る。104喜楽(きらく)()くともなしに、105小屋(こや)(かたはら)佇立(ちよりつ)して(いき)(やす)めてゐると、106六十余(ろくじふあま)りの(とし)よりの(こゑ)で、
107一体(いつたい)前達(まへたち)神様(かみさま)御用(ごよう)(いた)(もの)であるならば、108なぜに世間(せけん)義務(ぎむ)人情(にんじやう)()らぬのか、109そんなことで如何(どう)して衆生済度(しうじやうさいど)出来(でき)る、110口先(くちさき)(ばか)りの(まこと)で、111(こころ)(おこな)ひが正反対(せいはんたい)だ。112衆生済度(しうじやうさいど)(どころ)か、113自分(じぶん)一人(ひとり)済度(さいど)出来(でき)まいぞ。114(わづ)かに一銭(いつせん)二銭(にせん)(かね)()しいか、115口先(くちさき)(うま)いことをいうて、116信者(しんじや)から(かね)()ること(ばか)毎日(まいにち)日日(ひにち)(かんが)へてゐる神商売人(かみしやうばいにん)だらう。117(この)老人(らうじん)労苦(らうく)(むく)ゆることを()らぬか。118(わし)一旦(いつたん)それ(ほど)()しい(かね)なら()らぬと()うた以上(いじやう)は、119仮令(たとへ)(この)山奥(やまおく)でかつえて()んでもお前達(まへたち)(かね)(けが)らはしい!』
120とだんだん声高(こわだか)になつて(ののし)つてゐる。121一方(いつぱう)(ちひ)さい(こゑ)はよく()いて()れば、122聞覚(ききおぼ)えのある足立(あだち)正信(まさのぶ)()(こゑ)であつた。
123足立(あだち)『オイ(ぢい)サン、124(あま)劫託(がふたく)をつくものでない。125山路(やまみち)修繕料(しうぜんれう)をくれと()つたつて、126どうしてそれがやれるものか。127どこに修繕(しうぜん)出来(でき)()る。128道草(みちくさ)一本(いつぽん)()つた形跡(けいせき)もなし、129(つち)一所(ひとところ)(うご)かした気配(けはい)もないぢやないか。130(いま)(さき)道端(みちばた)(すすき)(あし)(この)(とほ)()り、131(たか)(いし)(つまづ)いて生爪(なまづめ)(おこ)したり、132これ(だけ)難儀(なんぎ)をして()旅人(たびびと)に、133山路(やまみち)修繕費(しうぜんひ)をよこせもないものだ。134(かね)有余(ありあま)つた気違(きちが)ひならいざ()らず、135こんな山子(やまこ)のイカサマ()イの山賊(さんぞく)みたいな(やつ)には、136淵川(ふちかは)へすてる(かね)があつても、137勿体(もつたい)なうてやれぬワイ。138世間(せけん)人間(にんげん)をバカにするにも(ほど)があるぞ。139(まへ)もよい(とし)しとつて、140よい加減(かげん)改心(かいしん)をしたら如何(どう)だ。141乞食(こじき)のやうな真似(まね)をして、142(なん)(こと)だ』
143鼻先(はなさき)でからかつて()る。144喜楽(きらく)はつと(その)矮屋(わいをく)入口(いりくち)()ると、
145(わたし)妻子(さいし)眷族(けんぞく)親類(しんるゐ)もない(あはれ)孤独者(ひとりもの)であります。146(とし)六十七才(ろくじふしちさい)147(この)奥山(おくやま)(かよ)人々(ひとびと)(ため)に、148一年中(いちねんぢう)ここに住居(ぢうきよ)して山路(やまみち)(なほ)し、149往来(わうらい)のお(かた)便利(べんり)をはかつて()(もの)であります。150どうぞ御同情(ごどうじやう)のあるお(かた)は、151乞食(こじき)にやると(おも)うて、152一銭(いつせん)でも半銭(はんせん)でも(よろ)しいから、153心持(こころもち)()げてやつて(くだ)さい……世界(せかい)慈善者(じぜんしや)さま……年月日(ねんぐわつぴ)……矮屋(わいをく)主人(しゆじん)
154(しる)してある。155(みぎ)張札(はりふだ)()て、156先程(さきほど)からの小屋(こや)(なか)争論(そうろん)理由(りいう)(ほぼ)推定(すいてい)することが出来(でき)た。157喜楽(きらく)はよい(ところ)足立(あだち)158四方(しかた)両人(りやうにん)出会(であ)うたと打喜(うちよろこ)び、159(ただち)(その)小屋(こや)へ、
160喜楽(きらく)御免(ごめん)(くだ)さい』
161(こゑ)をかけて這入(はい)り、162()イサンに、
163喜楽(きらく)御苦労(ごくらう)さまで御座(ござ)います』
164()つて十銭(じつせん)銀貨(ぎんくわ)一枚(いちまい)(あた)へた。165老人(らうじん)(べつ)(よろこ)んだ(かほ)もせず、166喜楽(きらく)()て、
167老人(らうじん)『ウンよし、168(おほ)きな(かほ)して(とほ)れ』
169(ただ)一言(ひとこと)(はな)つたきり、170(あな)のあく(ほど)喜楽(きらく)(かほ)()つめて()たが、171やがて(わが)(ひざ)をうつて、
172『ウンウン』
173何度(なんど)となく(うなづ)いて()た。174(この)老人(らうじん)こそ(じつ)不思議(ふしぎ)なものである。175虚構(きよこう)修飾(しうしよく)もない実際話(じつさいばなし)であるから、176此処(ここ)読者(どくしや)注意(ちうい)して(もら)ひたい。177(えう)するに九十九(つくも)仙人(せんにん)守護神(しゆごじん)が、178(この)老人(らうじん)臨時(りんじ)憑依(ひようい)して、179三人(さんにん)(こころ)(ため)したのであつたと()ふことが(のち)(わか)つて()たのである。
180 足立(あだち)181四方(しかた)両人(りやうにん)は、182ヨモヤ(あと)()つかけて()まいと(おも)うて()喜楽(きらく)姿(すがた)が、183眼前(がんぜん)(あら)はれたのに一寸(ちよつと)(めん)くらつて、
184足立(あだち)『オヽ上田(うへだ)サンですか、185(ただ)一人(ひとり)(この)山路(やまみち)をどこへお()しですか。186(わたし)一寸(ちよつと)急用(きふよう)上林(かんばやし)(ぼう)(たく)()つて()ますから、187マア()ゆるりとここで(やす)まして(もら)うて結構(けつこう)御話(おはなし)でも()イサンから()かして(もら)ひなさい。188老人(としより)()ふことは()(ため)になりますぞ』
189捨科白(すてぜりふ)(のこ)し、190あわただしく矮屋(わいをく)()つて、191四方(しかた)(とも)山路(やまみち)(のぼ)つて()く。
192 喜楽(きらく)はすぐ(さま)(あと)()つかけて()かうとしてゐる(とき)193(その)老人(らうじん)(そで)()いて、
194老人(らうじん)一寸(ちよつと)()ちなさい、195愚老(ぐらう)近路(ちかみち)案内(あんない)して()げませう』
196ときせる煙草(たばこ)一二服(いちにふく)グツと()み、
197老人(らうじん)『サアサアこうお()で』
198(さき)()ち、199老人(らうじん)にも()ず、200(あし)軽々(かるがる)しく仙人(せんにん)(かく)れてゐる、201杉山(すぎやま)(ふもと)谷川(たにがは)(そば)まで(おく)り、
202『サア(この)(かは)(むか)うへ(わた)り、203(みぎ)()つて一二丁(いちにちやう)(すす)めば、204そこが仙人(せんにん)(かく)場所(ばしよ)だ。205左様(さやう)なら……』
206()つたきり、207早々(さうさう)(かへ)つて()く。
208 喜楽(きらく)はよく(すべ)谷川(たにがは)急流(きふりう)(わた)り、209樵夫小屋(きこりごや)をさして(いそ)いだ。210五六丁(ごろくちやう)(のぼ)つたと(おも)(ころ)211九十九(つくも)仙人(せんにん)坂路(さかみち)中央(ちうあう)()つて()つてゐる。212そして喜楽(きらく)(むか)ひ、213顔色(かほいろ)(やはら)げ、214さも愉快(ゆくわい)げに、
215仙人(せんにん)『アヽ先生(せんせい)216(この)山路(やまみち)をはるばるとよく(たづ)ねて()てくれましたなア。217マアマアこちらへ()一服(いつぷく)なさい』
218自分(じぶん)(ちひ)さい小屋(こや)案内(あんない)し、219白湯(さゆ)(くろ)土瓶(どびん)から()んですすめ、220いろいろと神界(しんかい)秘事(ひじ)一夜間(いちやかん)かかつて、221諄々(じゆんじゆん)()(さと)した。222喜楽(きらく)高熊山(たかくまやま)第一次(だいいちじ)修行(しうぎやう)や、223第二回目(だいにくわいめ)修行(しうぎやう)(とき)に、224神界(しんかい)から()せられてゐた事実(じじつ)(おも)()し、225符節(ふせつ)(あは)すが(ごと)きに益々(ますます)(かん)じ、226自分(じぶん)信念(しんねん)はいよいよ(つよ)くなつて()た。
227 喜楽(きらく)矮屋(わいをく)老人(らうじん)親切(しんせつ)なる案内(あんない)()つて、228(つつが)なく九十九(つくも)仙人(せんにん)小屋(こや)到着(たうちやく)し、229いろいろと有益(いうえき)神界(しんかい)経綸(けいりん)()かされ、230非常(ひじやう)満足(まんぞく)したが、231足立(あだち)232四方(しかた)両人(りやうにん)の、233一日(いちにち)たつてもここへ()()ぬのに心配(しんぱい)(はじ)め、234仙人(せんにん)(むか)つて、
235喜楽(きらく)両人(りやうにん)はキツとここへ(たづ)ねて()(はず)だのに、236まだ姿(すがた)()せぬのは如何(どう)なつたのでせう、237山奥(やまおく)へでも(まよ)()んで()るのではありますまいか』
238(たづ)ねてみた。239仙人(せんにん)(わら)つて(こた)へて()ふ。
240仙人(せんにん)『アハヽヽヽ、241大変(たいへん)野心(やしん)(おこ)し、242(まへ)さまを()しぬいて、243大切(たいせつ)なる神秘(しんぴ)(かぎ)(にぎ)らうとした、244(はら)(くろ)人物(じんぶつ)だから、245今日(けふ)到底(たうてい)ここへは()ることが出来(でき)ぬやうに、246神界(しんかい)から(かき)をされてゐるのだから、247明日(あす)(あさ)になつたら、248ヤツとの(こと)()るであらう。249憂慮(いうりよ)するには(およ)ばぬ。250(てん)のお(みや)(いち)馬場(ばんば)のお父様(とうさま)も、251(てん)のお(みや)()馬場(ばんば)のお父様(とうさま)も、252(てん)のお(みや)(さん)馬場(ばんば)国族(こくぞく)武蔵(むさし)吉崎(よしざき)兼吉(かねきち)も、253(みな)(まへ)(たい)(まも)り、254(この)神秘(しんぴ)(つた)へむ(ため)に、255彼等(かれら)両人(りやうにん)()ると邪魔(じやま)になるから、256ワザとに(おく)れさして()るのだ』
257といつて微笑(びせう)して()る。258喜楽(きらく)仙人(せんにん)(ことば)一伍一什(いちぶしじふ)()(をは)り、259(あま)教祖(けうそ)筆先(ふでさき)符合(ふがふ)せるに(おどろ)き、260益々(ますます)神界(しんかい)(たい)して一大責任(いちだいせきにん)()にかかれることを覚悟(かくご)信念(しんねん)はますます(かた)くなつた。
261 一方(いつぱう)二人(ふたり)喜楽(きらく)(せん)()さうとして、262(かへつ)山路(やまみち)にふみ(まよ)ひ、263濃霧(のうむ)(ため)方向(はうかう)(あやま)り、264(ふか)谷底(たにそこ)転落(てんらく)し、265身体(しんたい)各所(かくしよ)にすり(きず)さへも()ひ、266(まよ)(まよ)うて(やうや)(また)(もと)老人(らうじん)小屋(こや)(まへ)到着(たうちやく)し、267今度(こんど)老人(らうじん)()()けるほど呶鳴(どな)りつけられ、268ブルブル(ふる)(なが)ら、269(さき)無礼(ぶれい)陳謝(ちんしや)し、270(やうや)老人(らうじん)(いか)りも()け、271老人(らうじん)好意的(かういてき)案内(あんない)()つて、272(よる)十一時(じふいちじ)(ごろ)(やうや)杉山(すぎやま)(ふもと)一軒(いつけん)宿屋(やどや)()いた。273(その)()はそこで一泊(いつぱく)し、274翌日(よくじつ)早朝(さうてう)登山(とざん)して()たのである。275二人(ふたり)は、
276(あま)心得(こころえ)(ちがひ)(いた)したから、277神界(しんかい)から、278気付(きづけ)をされたと喜楽(きらく)サンは(おも)はれるか()らぬが、279これも(なに)神様(かみさま)のお仕組(しぐみ)でせう』
280負惜(まけをし)みの(つよ)性質(せいしつ)とて、281表面(へうめん)平気(へいき)(よそほ)うてゐたが、282(その)(かほ)には(かく)()れぬやうな不安(ふあん)血相(けつさう)()えてゐた。283仙人(せんにん)足立(あだち)(むか)厳然(げんぜん)として、
284仙人(せんにん)『お(まへ)面部(めんぶ)には殺気(さつき)(あら)はれてゐる。285(なん)となく心中(しんちう)不穏(ふおん)だ。286一時(いちじ)(はや)惟神(かむながら)(みち)立帰(たちかへ)つて、287(およ)ばぬ企図(きと)()めなさい。288(いま)改心(かいしん)せなくては()破滅(はめつ)(まね)きますぞよ』
289(ことば)(つよ)()(はな)ち、290(また)もや四方(しかた)春三(はるざう)(むか)ひ、
291仙人(せんにん)『お(まへ)盤古(ばんこ)(れい)守護(しゆご)して()る。292(はなはだ)面白(おもしろ)くない、293(まへ)大望(たいまう)は、294丁度(ちやうど)猿猴(ゑんこう)(みづ)(つき)(とら)へむとするやうなものだ。295(いま)(あらた)めなくてはキツと()(ほろ)ぼすことが()()るぞ。296今日(こんにち)只今(ただいま)(かぎ)良心(りやうしん)()(かへ)り、297一心(いつしん)真心(まごころ)(もつ)神界(しんかい)(つか)へなさい。298さうすれば(むかし)からの(みたま)(ふか)罪科(つみとが)(ゆる)された(うへ)299天晴(あつぱ)神界(しんかい)御用(ごよう)使(つか)つて(もら)へるであらう。300(しか)(なが)(いま)(こころ)では駄目(だめ)だ。301(はや)(あらた)めないと、302(わざはい)(たちま)(その)()(いた)凶徴(きようちよう)が、303(まへ)(かほ)(あら)はれて()る。304(この)仙人(せんにん)()ふことをゆめゆめ(うたが)ふこと(なか)れ』
305ときめつける(やう)()つた。306二人(ふたり)真青(まつさを)(かほ)をして一言(いちごん)もよう(こた)へず、307(からだ)をビリビリと(ふる)はせて()た。308仙人(せんにん)(あらた)めて()ふ。
309仙人(せんにん)『いよいよ時節(じせつ)到来(たうらい)して、310自分(じぶん)役目(やくめ)今日(こんにち)(もつ)(をは)りをつげた。311明日(あす)からは人界(じんかい)(くだ)つて、312人場(ひとば)(つと)めに(したが)ひ、313余生(よせい)(おく)りませう。314神場(かみば)(よう)今日(けふ)終結(しうけつ)だから、315(ふたた)(たづ)ねて()(もら)つても最早(もはや)駄目(だめ)だ。316左様(さやう)なら……』
317()ひすて、318大鋸(おほのこぎり)(かた)にひつかけ、319山奥(やまおく)(ふか)(その)姿(すがた)(ぼつ)した()り、320()()ないので、321やむを()ず、322三人(さんにん)帰途(きと)()いた。
323 これから以後(いご)四方(しかた)春三(はるざう)盤古(ばんこ)悪霊(あくれい)憑依(ひようい)され、324邪心(じやしん)()()(つの)りて喜楽(きらく)排斥(はいせき)し、325(その)()御用(ごよう)(つと)めむと数多(あまた)役員(やくゐん)信者(しんじや)籠絡(ろうらく)し、326いろいろ雑多(ざつた)計画(けいくわく)()てて()たが、327一年(いちねん)たつた(のち)に、328仙人(せんにん)()ふた(ごと)く、329大変(たいへん)神罰(しんばつ)(かうむ)りて悶死(もんし)するに(いた)つた。330(じつ)(つつし)むべきは慢心(まんしん)取違(とりちがひ)とである。
331 惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
332大正一一・一〇・一四 旧八・二四 松村真澄録)
   
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